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健康・病気予防

50代からの「疲れやすさ」と吸収力の低下——エビデンスに基づく整理

by jyu-genki 2026. 4. 3.

 

 

50代からの「疲れやすさ」と吸収力の低下——エビデンスに基づく整理

 

背景:倦怠感の背後にある吸収障害

倦怠感の背後にある吸収障害
倦怠感の背後にある吸収障害

「疲れやすいのは歳だから仕方ない」と片付けられることが多いが、実態は異なる。令和元年度 国民健康・栄養調査では、50代女性において鉄摂取量の推奨量(10.5mg/日:日本人の食事摂取基準2020年版)を下回っている層が一定数観測されている。同調査において60代男性では、ビタミンB12摂取量が推奨量をわずかに上回る程度に留まっており、余剰がほぼ存在しない実態が示されている。問題の本質は「食べていない」ことではなく、「吸収できていない」という吸収経路の障害にある。

鉄は赤血球中のヘモグロビンに組み込まれて肺から全身の細胞へ酸素を運搬し、ミトコンドリア内でのATP(細胞エネルギー)合成を支える。鉄が不足すると、酸素運搬能が低下し、筋肉・脳・消化管のすべてが機能不全に傾く。ビタミンB12は核酸合成(DNA複製)と神経髄鞘の維持に不可欠な補酵素であり、B12が枯渇すると赤血球が正常に分裂できず、巨赤芽球性貧血に至る。この状態では倦怠感・息切れ・神経症状(末梢神経炎、記憶力低下)が直接的な病態として発現する。

1. 加齢に伴う吸収機構の変化

加齢に伴う吸収機構の変化
加齢に伴う吸収機構の変化

加齢に伴う胃酸分泌量の低下は、鉄・B12の両方の吸収を阻害する生理学的プロセスである。胃酸は食品中の非ヘム鉄(Fe³⁺イオン)をFe²⁺に還元することで腸管上皮での取り込みを可能にするが、酸の不足は還元効率を著しく低下させる。ビタミンB12の吸収はさらに複雑で、胃壁細胞から分泌される内因子(Intrinsic Factor)とB12が結合して初めて、回腸末端での吸収が成立する。加齢・胃炎・プロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期服用によって内因子の産生が減少すると、食事からの摂取量がいかに十分であっても吸収は成立しない。

日本消化器病学会の報告では、慢性萎縮性胃炎の有病率は60代で相当数に達するとされており、この層では経口摂取量の増加のみで欠乏を補うことには限界がある。検査値の読み方としては、血清フェリチン(貯蔵鉄の指標)、血清ビタミンB12(欠乏の目安となる基準値あり)、MCV平均赤血球容積(巨赤芽球性貧血の指標)の三項目を同時確認することが、ヘモグロビン単独では見逃される「隠れ欠乏」を検出するために重要である。

日本神経学会ガイドライン:「ビタミンB12欠乏性神経障害診療ガイドライン」では、食事摂取量が推奨量を上回る場合であっても、血中B12濃度が低値である症例の存在が言及されている。これは吸収障害の有無判定に血液検査が必須であることを示している。

2. 吸収率に基づく食卓の構成と実践戦略

吸収率に基づく食卓の構成と実践戦略
吸収率に基づく食卓の構成と実践戦略

鉄にはヘム鉄(動物性)非ヘム鉄(植物性)の二種類が存在し、ヘム鉄の吸収率は非ヘム鉄より大幅に高い(厚生労働省『e-ヘルスネット』「鉄」の項参照)。ビタミンB12は動物性食品にのみ天然に存在し、植物性食品では摂取できない。このため菜食傾向の強い50〜70代では特に欠乏リスクが上昇する。

表1:鉄・ビタミンB12 食材別含有量と吸収条件の比較(100g当たり)
食材 鉄含有量 B12含有量 鉄の種類 吸収条件 週3回の目安
牛レバー 4.0mg 52.8μg ヘム鉄(高吸収) ビタミンCと同時摂取で吸収向上 60〜80g/回
あさり(水煮缶) 29.7mg 68.4μg ヘム鉄(高吸収) タンニンは吸収阻害、汁ごと摂取推奨 50g/回
かつお(生) 1.9mg 8.4μg ヘム鉄 吸収阻害要因なし 80〜100g/回
ほうれん草(生) 2.0mg 0μg 非ヘム鉄(低吸収) ビタミンC・肉と同時摂取で向上、シュウ酸は阻害 80g/回(加熱推奨)
納豆 3.3mg 0.1μg 非ヘム鉄 ビタミンK2との相乗作用(骨代謝) 1パック/回

出典:文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」、厚生労働省 e-ヘルスネット「鉄の吸収」「ビタミンB12」。

週3回の食卓構成例として、1回目はあさりの味噌汁(汁ごと)+ほうれん草のおひたし(レモン汁で非ヘム鉄の吸収を補助)2回目は牛レバーの生姜炒め+ブロッコリー3回目はかつおの刺身+納豆ご飯が挙げられる。注意点として、緑茶・コーヒーに含まれるタンニン・クロロゲン酸は非ヘム鉄の吸収を大幅に阻害するとされる(厚生労働省 e-ヘルスネット「鉄の吸収に影響する因子」)。食事中・食直後の摂取は避けることが望ましい。

厚生労働省 国民健康・栄養調査(令和4年度):60〜69歳女性の鉄摂取量は食事摂取基準の推奨量をおおむね上回る水準と報告されている。しかし自己申告による食品摂取量であり、消化管の実効吸収率を反映した「実効摂取量」は大幅に低くなると分析される。


参考・公式情報厚生労働省 公式サイト(mhlw.go.jp)e-ヘルスネット、日本神経学会「ビタミンB12欠乏性神経障害診療ガイドライン」等で最新の公表資料をご確認ください。

Q&A及びリスク管理

Q:血液検査を受けたことがないが、どこで受けられるか。

A:特定健診(40〜74歳対象、保険料の一部負担または無料)、または内科・総合診療科の外来で血清フェリチン・ビタミンB12・ヘモグロビン値の測定が可能である。ただし特定健診の標準項目にはフェリチン測定が含まれていないため、医師に「鉄欠乏の有無を確認してほしい」と伝えることが実務的である。

Q:吸収障害が疑われた場合、どう対応するか。

A:ビタミンB12欠乏が血液検査で確認された場合、筋肉注射によるB12補充(シアノコバラミン注射)が内科・神経内科で保険適用となる。経口サプリメント・食事改善のみで補おうとする前に、吸収障害の有無判定が必須である。これは日本神経学会ガイドラインにおいても推奨されている実務的対応である。


おわりに

倦怠感は単なる疲労ではなく、細胞レベルでのエネルギー産生不全を示す信号である可能性がある。吸収というプロセスは「食べること」と同じくらい重要であり、年齢とともに体の機能が変化するのと同様に、栄養の吸収効率もまた変化する。

「疲れるのは仕方ない」と諦める前に、血液検査でフェリチン・ビタミンB12・MCVの三項目を確認することで、対応策が見えてくる場合がある。次の健診の際に、医師にこれらの項目の確認を依頼してみることをおすすめする。

免責事項:本記事は健康に関する情報提供を目的とするものであり、医師等の診断・治療・医学的判断を代替するものではありません。症状がある場合は医療機関を受診してください。